遺書#2〜僕は君をちゃんと愛せてたでしょうか〜
「あの?」
「あ、ごめんなさい」
ふと我に返り彼女の腕を掴んだ自分の手を離しました。
きっと、その時僕は真っ赤な顔をしていたと今となっては、思います
「あぁ…いえ、そうではなくて」
彼女は、そう言いながら申し訳なさそうにチケットを自分の顔の前まで持ってきました。
「あぁ、電車代ね、大丈夫です。気にしないでください?」
「ありがとうございます」
彼女の赤く染まる頬を観れたことが嬉しくありました。そう考えると電車代の事なんてこれっぽっちも惜しくはありませんでした。
緑風が僕たちの間を通り抜け、じんわりと汗ばむ僕の胸元を涼しくさせ、
彼女の使う香水か、柔軟剤の香りを一緒にこの空間に散りばめて去って行きました。
「初夏って言うんですかね?」
「暦の上ではもう夏か、もう少し涼しくてもいいものの、日本の夏は湿気が多くていけないね」
「ええ、そうですね」
彼女の笑う顔がとても美しく、一瞬、僕はなんのために鎌倉へ行くのか忘れてしまいそうでした。
この時間が続けばいいのに考えたのは事実です
神が最後の教えだとして彼女を僕の前に連れてきてくれたのなら、ほんの少しだけほんの少しだけ、彼女の手を取って生きてみようかと
考えましたが、それも一瞬の事でした。
「今晩、貴方の宿に一緒について行ってもいいですか?」
そう言う目は何もかも見透かしているようで
深く深く光一つ通す事が出来ないような悲しい目だった
「ええ、構いませんよ」
はい。としか言えませんでした。
その返事の後直ぐに、駅員の到着するという放送がなり、僕たちは
そっと静かに電車の席を立ち降りました